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アトリウム

各作品の解説は、南砺市広報『広報なんと』内「南砺市の文化財と美術品のご日本画紹介」というコーナーで当館学芸員が執筆したものです。(2020.4月号で当コーナーは終了しています。)


作品名

青い森

作者名 大島秀信
制作年

1983(昭和62)年

材質/技法 日本画
規格 94cm×143cm

展示中『広報なんと』なんとの美術品№41掲載

作者は、昭和3年、富山市に生まれました。昭和27年、日本画の大家東山魁夷に師事し、日展を舞台に活躍。日本画家として大成します。郷土においては富山の美術界に新鮮な刺激を与え続けた展覧会「5人展」を開催。昭和44年の第1回展以来、35会も自身の画業を貫き通し、ファンに強い支持を得ています。
本作品は、平成9年、福野文化創造センターの企画展「福野を描く12人展シリーズ第8弾 ―樹に魅せられて―大島秀信展」に出品されたものです。一面の青い森に、生命体としてたたずむ樹木は、神秘的なまでに美しく、声をかけると木魂(こだま)が返ってくるような静けさに吸い込まれそうになります。しかし、富山の自然を描き続ける作者の心の奥には、公害や環境は買いが続く現実への憤りがあるのかもしれません。


作品名

里山の浪漫

※第45回日展出品作品

作者名 川原和夫
制作年

2013(平成25)

材質/技法 彫刻・樟
規格 180cm×65cm×7cm

『広報なんと2018年9月号』掲載

「里山の大気の中に浪漫の夢を見る兎が神様になった」という一文で作品の解説は始まります。フキが生える中で、小さな前足をしっかりと合わせて祈りを捧げる一羽の兎は実は神様なのです。

一枚の樟(クス)材に彫り上げられたこの作品は、七月に川原和夫氏より南砺市にご寄贈いただきました。今後は福野文化創造センターにて常設展示となります。

川原氏は井波の木彫工芸家で、祖父の故・川原啓秀のもとで木彫を学びました。動物を介して、豊かな里山への祈りをこめた作品を多く手掛けており、日展や日本新工芸展を舞台に活躍されています。

来館の際はぜひ作品の前に立って、生き生きとした彫目を観察してみてください。兎のやわらかそうな体や、今にも動き出しそうな鼻と耳、そして里山の朝を思わせる落ち着いた雰囲気は、様々な彫り方の組み合わせによって表現されていることを感じていただけると思います。


作品名

時差-A

作者名 鶴谷登
制作年

1977(昭和52)

材質/技法 キャンバス
規格 135cm×165cm

『広報なんと2018年3月号』掲載

鶴谷登氏は、けんか山で有名な高岡市伏木の出身で、大学までは写実様式を主として制作に励んでいました。転機が訪れたのは、金沢美術工芸大学卒業後のアメリカ留学。4年間、現地で銅版画、シルク・スクリーンの技術を習得する中で、当時のアメリ 戦後美術の影響を受けて情緒性を排除した画面構成の抽象画を手掛けるようになりました。
今回は、鶴谷氏の「時差-A」という作品を紹介します。富山の方には馴染み深い売薬さんが配置薬と一緒に置いていく紙風船が8個整列しています。紙風船に描かれた昔話の断片画と影の向きに作者の意図を感じます。風水の世界では方角によって運気の種類が異なり吉凶が変化します。本作の影の位置もそれらと関係があるのでしょうか。真相は本人のみぞ知るところですが、 興味のある方はぜひ福野文化創造センターの常設展でご覧ください。


作品名

儀式のはじまり

作者名 野上祇麿(ただまろ)
制作年

1979(昭和54)

材質/技法 キャンバス・油絵
規格 145.5cm×112.1cm

『広報なんと2017年12月号』掲載

野上祇麿氏は、ヤンサンマ(流鏑馬)で有名 な射水市(旧下村)の加茂神社の次男として生まれました。幼少の頃から境内の祭礼に触れる機会が多く、野上作品の象徴である「越」 は彩り豊かな稚児舞から平安時代の風景を重ねて作品へ昇華されたそうです。

「儀式のはじまり」で毬の中に描かれている 「芽」、そして越を紡ぐ「赤い糸」が印象的です。 「毬」が日本人そのものを表しているとすれば、「芽」は幼少期からの神事との密接な関係を表し、精神的土壌として育まれていく事を暗示しているように見えます。また、運命の人とを結ぶ「赤い糸」が真っ直ぐになっていたり、ほつれていたりするのは人間模様を表現しているのでしょうか。

この作品は、平成2011月に福野文化創造センターに寄贈された20作品の1点であり、現在館内でご覧いただけます。ぜひお立ち寄りください。


作品名

まつりの朝

作者名 野上祇麿
制作年

1978(昭和53)

材質/技法 キャンバス・油絵
規格 227.3cm×162.1cm

『広報なんと2017年9月号』掲載

「やんさんま祭り」で知られる下村加茂神社の神主の家に生まれ、祭礼を身近にして育った野上祇麿氏は、「祭」をテ ーマにした作品を多く残しています。

今回ご紹介する「まつりの朝」は、一面の鮮やかな青色が目を引く作品です。吸い込まれそうなほどの美しい青と白とのコントラストが相まって、まるで真夏の空のようです。白い部分には、赤や黒、緑などが断片的に描かれています。祭で使われる旗や衣装を表しているようにも見えます。そして、特徴的な毬は野上氏の作品に多く登場するもので、作者自身の象徴だと言われています。

この作品は現在福野文化創造センターに展示してあります。迫力ある美しい作品をぜひその目でご覧ください。


作品名

明日の抄本

作者名 野上祇麿
制作年

1972(昭和47)

材質/技法 キャンバス・油絵
規格 145.5cm×112.1cm

『広報なんと2017年4月号』掲載

野上祇麿氏は、富山県射水市(旧下村)の「やんさんま祭り」 流鏑馬で知られる下村加茂神社の神主の家に生まれました。流鏑馬や稚児舞などの祭礼を身近に感じながら多感な時期を過ごしたため、作品には彼が感じた「祭り」のイメージが表現されています。

今回ご紹介する「明日の抄本」は、まず一面の明るい緑色が目に飛び込んできます。濃淡の変化は無く塗りつぶされています。対照的に緑の中に描かれた四角形は、風に吹かれる旗のように動きがあります。また、下半分は印象が異なり、優しく柔らかなタッチとなっています。まるで草原か、動物の毛並みのようです。このような静と動の対比と、緑・赤・黄などの鮮やかな色合いは、まさに初夏に行われる「やんさんま祭り」の風景を表現しているように見えます。

この作品は、現在福野文化創造センターの館内で見ることができます。ほかにも一足先に初夏を感じられる作品を展示しておりますので、ぜひお気軽に足をお運びください。


作品名

高原残雪

※第16回日展出品作

作者名 斎藤清策
制作年

1984(昭和59)

材質/技法 日本画
規格 171 cm ×233cm

『広報なんと2016年6月号』掲載

日本画家の斎藤清策氏は、大正9年砺波市庄川町に生まれ、昭和29年に日展初入選後、西山英雄氏に師事します。立山に近い庄川に住み、山麓の樹林、鳥、そして草花や風景を、まるでドラマをみるような構成と絢欄豪華ないろどりで描き、“花鳥画家”としての地位を確立しました。平成3年と5年の日展で2度にわたり特選を受賞した後は、日展審査員、日展会員を歴任。2009年(平成21年)に90歳で画家生命を終えました。

本作品「高原残雪」は、逝去の翌年(2010年)に親族から南砺市に寄贈されたものです。雪解けの高原風景を背景 に、草花の花弁が生命を宿した力強さで眼前に広がる、装飾性の高い画風です。本作品は現在ヘリオスの回廊に展示してあります。